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前橋のバラにまつわる人々

前橋市の「市の花」である、バラ。
実際に、前橋市は全国有数の切りバラの生産地です。その作付面積は全国5位を誇り、年間950万本が出荷されています。

私たちが普段何気なく目にしているバラには、楽しみ方が大きくわけて2種類あります。
ひとつは、園芸・観賞用として育てられるバラ(ガーデン品種)。もうひとつは、切り花として生産されるバラ(営利用切花品種)。

そんな2つのバラの楽しみ方を深く知るために、前橋市でそれぞれのバラを育てるバラ園と農家に、2つの視点からインタビューをおこないました。

世界各国のバラが咲き誇る「敷島公園門倉テクノばら園」



敷島公園門倉テクノばら園(以下敷島ばら園)は、昭和46年5月に開園し、その後平成20年3月にリニューアル。開園以来、訪れる多くの人たちを魅了し続けています。そんなばら園とバラの魅力について、園長長岡さんと技士の藤倉さんにお話をうかがいました。
 

クラシックなバラを楽しむレトロな花園


 
バラは毎年新しい品種が数多く登場し、現在では何万種ものバラが存在しています。敷島ばら園では、”昭和レトロなばら園”をテーマに、約600種7,000株のバラを楽しむことができます。 バラの種類には大きく分けて、自然の中で自生している「原種」、1867年より前に作出された「オールドローズ」、それ以降に作出された「モダンローズ」の3種類があります。敷島ばら園では、敷地の一番奥にオールドローズのエリアがあり、古くからある品種を、その歴史などを感じながら楽しむことができます。また、モダンローズエリアでは、国ごとにエリアがわかれ、その国ごとの花の特徴なども感じ取ることができるように工夫されています。

 

園内を正面広場からまっすぐ進んでいくと、前橋生まれのバラ「あかぎの輝き」のコーナーがあります。あかぎの輝きは、満開になるにつれ花びらの色が黄色からオレンジ、赤へと変化していく性質があり、色の変化を楽しめる特徴的な品種です。
 
広い園内にはそのほかに、原種やイングリッシュローズのエリアがあります。また、令和2年に整備された「香りのガーデン」では、香りの豊かな品種が集められています。バラの香りは大きく7種類に分類され、香りのガーデンでは香りの違いを楽しめるように植栽されています。
 

全体を楽しむ春のバラ、一輪一輪を楽しむ秋のバラ



  敷島ばら園では、毎年春と秋にばら園祭りを開催。5月に開催される春のばら園祭りでは、園内いっぱいにバラが咲き誇り、ばら園全体がエレガントに彩られます。また、まつり期間中は園内のライトアップがおこなわれ、夜の幻想的なバラを楽しむこともできます。


春のバラは、冬季剪定の後、気温の上昇とともに一季咲きから四季咲まですべての品種が一斉に開花します。そのため園内全体が多くのバラに包まれ、春バラらしい景色を楽しむことができます。それに比べ秋のバラは四季咲き品種が開花の中心となり、春に比べ花の数は少なくなります。また、気温の変化とともに自然に咲くわけではなく、咲かせる時期を逆算し、一斉に夏季剪定をおこなうことで、計画的に咲かせています。夏の間は、気温が高く、病害虫も発生しやすいため、適切な手入れによってコンディションを維持することが大切になります。秋バラは花の数は少なくなりますが、花色が濃くなり、香りや花もちも良いため、一輪一輪をじっくり楽しむことができます。
 

正解がない「バラの育て方」

バラを育てる上で避けて通れないのが、病害虫による被害です。様々な病気や害虫が存在し、それを防ぐことがバラ栽培では大切なことの一つになります。その対策について語ってくれたのは実際にバラの管理をおこなっている藤倉さん。


 

「病害虫の被害を軽減するためには消毒は欠かせません。しかし、完全に防ぐためには消毒の回数や散布量を増やすことに繋がります。このばら園では減農薬にも取り組んでおり、株内の風通しをよくする整枝と呼ばれる枝抜きを常におこないながら、消毒だけに頼らない管理を実践しています」
 
育てるのが難しいと言われる、古い年代のバラも多く栽培し続けている敷島ばら園。「バラを育てる楽しみも知ってほしい」と、年2回ほど講習会もおこなっています。ただ、バラの育て方やその考え方はさまざま。品種や環境によって剪定の仕方や水やりに違いがあり、決まりがありません。それが難しいところであり、やりがいでもあるという藤倉さんに、バラを育てる上でのポイントをうかがいました。

 

「一番心掛けているのは、毎日バラをよく観察することですね。病害虫については、発生してからの対処ではなく、予防することがとても大切です。そのためまめに観察することが大切なんです。枝や花首の硬さ、葉の厚みや光沢などをみることも大切です。花が咲いている時期は、花のすぐ下の花首がしっかりしているかどうかも生育が良好か判断するポイントにしています」
 
敷島ばら園は無料でいつでも入園できるため、剪定やその他の管理を見にくる人もいるそう。
 
「剪定の仕方やつるバラの誘引などインターネットや本などでも学べますが、実際に見たり聞いたりしないとよく分からないことがあります。なるべくお手本になるような基礎的でわかりやすい手入れや説明を心掛けているので、見学や質問のための来園も、大歓迎です(笑)」
 
  藤倉さんはバラの育て方の講座も開かれているそうです

関東でも屈指のバラ鑑賞スポットとして愛され続けている敷島公園門倉テクノばら園。2023年も、5月10日から31日にかけて、春のばら祭りが開催されています。入場無料で鑑賞することができるので、美しく咲き誇る様々なバラをぜひ一度観に行ってみてくださいね。

 

バラ産業の未来を背負う「前橋バラ組合」



ばら園やお庭などで観られるバラの他に、お花屋さんで目にするような切花もバラの楽しみ方のひとつ。 全国でも有数のバラ生産地である前橋市の産業を支えているのが「前橋バラ組合」のみなさん。前橋バラ組合は、日本屈指の品質を誇るバラの生産者グループで、8軒のバラ農家で構成されています。 生産されるバラは、「日本ばら切花品評会」で最高賞である農林水産大臣賞を2年連続受賞するほどの高品質。バラが持つ本来の良さを最大限引き出すことを重視し、人工培地での栽培はおこなわず、土で育てることを大切にしています。



今回は、そんな前橋バラ組合の組合長、大谷伸二(おおやしんじ)さんにインタビュー。バラ生産地としての前橋の姿、そしてバラの栽培について詳しくうかがいました。

始まりは3軒の農家から


バラ組合として共同で運営をおこなうようになったのは平成2年。それまではそれぞれ個々のバラ農家として栽培をおこなっていました。そんな中、上武国道の開通にともなって農園が移転。その際、先代にあたる経営者たちが仲間を集めて発足したのが前橋バラ組合です。当時は3軒ほどだったそうですが、現在では8軒の農家が所属し、それぞれがバラを栽培しています。


 

前半のばら園のお話でも登場したようにバラは品種がとても多い花です。栽培のノウハウも土地の環境によって異なり、正解がありません。そこで大切になるのは、情報交換です。農家としては珍しく共同経営という形態をとる前橋バラ組合ですが、ここに「組織ならでは」のメリットがあります。 「やっぱり季節の変わり目は病気が出やすいんです。農家同士で様子を聞いたり、有効な薬を教え合ったりすると、品質の安定につながりますね。まとまって出荷しているから、市場や花屋さんに与える影響力があるのも強みです。また、同じ場所で仕事することで良い緊張感をもって働けるので、モチベーションにもなっていますよ」
 

高品質なバラを届けるために


 

前橋バラ組合のバラは、その品質に定評があります。高品質なバラを届けて「選ばれる産地」になるために大切なのは、品評会などで良い評価をもらうことだけでなく、安定した品質を守り続ける必要があります。 バラは野菜と同じく天候に左右されやすい作物です。近年の温暖化や異常気象の影響もあり、品質を保ちながら出荷することは至難の業。 しかし、そもそもどんなバラが「品質の高いバラ」なのでしょうか。



「花のボリューム感と、茎がしっかりしているかどうか、ですね。毎日ハサミを入れているから、音でわかるんです。曇天が続くと少し柔らかいなとか。今日は木振り(きぶり)が良い、なんて言い方をしますね」 さらには毎年新しい品種が発表されるバラの世界。花屋や消費者のニーズに合わせて、トレンドも押さえなければいけません。 「『この品種、初めて見た!』となったら、楽しいじゃないですか。ですから、人々の需要にも敏感でなければいけないんです。バラ組合が立ち上がった当初、それぞれの農家が栽培するバラの品種は3〜4品種だったのですが、現在は8〜9品種に増えています」

 

「生産者、市場、卸業者、小売店、消費者が一連の流れで全てつながっているんですよね。だからこそ、組合としての品質の基準を保ちながら生産を続けることが必要だと思っています。また、その全てに人が関わっているので、梱包などにも気を配っていますよ。選ばれ続けないと、産地としては認められないですから」 その言葉通り、バラ組合が出荷する箱にはバラの様子がわかる小窓がついています。仕入れる業者、花屋さんにとって、買う前に状態を確認できることは大きな安心につながります。



個人では実現が難しいことも、組織として向き合うことで解決していく。そんな前橋バラ組合にも、直面している課題があります。 「人手の問題は、ずっとありますね。バラ農家は家族経営のところが多く、農家によって雇用人数がまばらなんです。そろそろ身体的な限界も見えてくるところですし。みんながこれからも継続して働けるよう、組合としては仕組みから再設計しなければいけないと思っています」 前橋バラ組合は、これからも日々誠実にバラと向き合いながら、「前橋のバラの未来」を背負います。



切花のバラも5月に全盛期を迎え、多くのバラが店頭に並びます。この時期のバラは特に花の状態もよく、綺麗な花を咲かせるので、ぜひお近くのお花屋さんで買ってみてください。

前橋のバラを楽しみながら応援しよう

見て楽しい、飾って楽しいバラは今がシーズンです。ぜひばら園で、またご自宅で、「市の花」バラを味わってみてください!

※この記事は2023年5月時点の情報です。

マエバシ 〇〇 ライナーノーツとは?

私たちは日々の生活の何気ないひと時でも、数多くのコンテンツに触れています。
そしてコンテンツの数だけストーリーが存在します。
マエバシ◯◯ライナーノーツでは前橋にまつわる文化や歴史に関わる人や、
その張本人だからこそ知っているエピソードを紐解き、お伝えして参ります。

第1回目のテーマは前橋市の花である「バラ」。そんなバラにまつわる人々から伺ったエピソードをお楽しみください。