「旅のたね」特集2 人と人をつなぐまちの酒屋

人をつなぎ、地域を盛り上げる取組をされている「まちの酒屋さん」を取材

かつてはどこにもあった「町の酒屋さん」が姿を消してきた。まめに御用聞きして、重い酒を台所まで届けてくれた。低価格のスーパーや24時間営業のコンビニに顧客を取られ、後継もいなければ閉店も仕方ないだろう。しかし、こんな時代にも頑張っている酒屋さんはある。蔵元に足しげく通い希少な地酒をそろえる日本酒の専門店。ソムリエを置き品質管理にこだわるワインショップ。繁盛するには理由がある。

新井酒店

  • 店舗外観

    店舗外観

  • 店舗外観

    店舗外観

  • 入口

    入口

  • 店内

    店内

  • 広いワインセラー

    広いワインセラー

  • 手に入りにくい地酒が並ぶ

    手に入りにくい地酒が並ぶ

  • おしゃれなインテリア

    おしゃれなインテリア

  • 枡酒列車の様子

    枡酒列車の様子

  • お話を伺った営業部長の石井さん

    お話を伺った営業部長の石井さん

「売る」ではなく「伝える」  魂こめた酒を最高の状態で
作り手が魂をこめた酒を最高の状態で
店の中に小さな部屋がある。ワインセラーだ。中に入るとヒヤッとする。天井からファンが回り、空気を循環させている。照明はすべて紫外線の出ないLED。念を入れて窓にはフィルムを張っている。「造り手が魂をこめた酒を飲み手に最高の状態で飲んでいただきたい。『売る』でなくて『伝える』が当社の矜持。品質管理は徹底しています」。日本酒を担当する石井仁部長は自信たっぷりにそう話す。
お話を伺った石井営業部長

蔵元に足を運んで仕入れた酒
 仕入れる酒は「伝えたい」と願うものばかり。「群馬で一番小さい蔵」と言われる館林の清水屋酒造の純米酒はビンテージを楽しめる。限定品も多い。どれも担当者が蔵元に何度も足を運び、やっと取引を許された銘柄だ。「大事な酒を任せてもらえ、大泣きしたこともありました」と懐かしむ。 日本酒やワインのほか、焼酎、ウイスキーもこだわりが伝わる。それでいて、高いものばかりではない。ワインセラーには1000円未満のワインもある。梅酒やゆず酒など飲みやすい和リキュールもそろう。
ワインセラー

酒文化を地元の人と盛り上げたい
創業は1930(昭和5)年。ホッピーの代理店になったり、夜遅くの配達もしたりと、地道な経営を貫いてきた。上毛電鉄とコラボした「桝酒列車」など楽しいイベントも企画。「利益追求ではなく、地元の人と一緒に酒の文化を盛り上げていきたい」。目指すは「酒の伝道師」だ。
上毛電気鉄道と取り組んだ「桝酒列車
店のおススメを試飲
群馬ではここでしか買えない? 石垣島の幻の泡盛「宮之鶴」

群馬ではここでしか買えない? 石垣島の幻の泡盛「宮之鶴」

石垣島に幻の泡盛「宮之鶴」があるという。家族3人の小さな蔵元で、昔ながらの道具と手法で手間と時間をかけて造る。島外にはほぼ出荷されなかったのを十数年かけて口説き、新井酒店で扱うようになった。 沖縄の地酒だから、沖縄の料理に合うはず。缶詰のスパムをソテーした。まずはロックでやろう。泡盛独特のクセはあるが、意外とすっきり。スパムの強めの味とコクに負けない力強さがある。 2杯目は炭酸で割ってみた。これはいい。さわやか。石垣島の風が吹き抜けた感じだ。
(ライター/Kaz.A)  

グランヴァン前橋(仲沢酒店)

  • 店舗外観

    店舗外観

  • 店内の様子

    店内の様子

  • 店内の様子

    店内の様子

  • カウンター

    カウンター

  • カウンターで生ハムを切り分けてくれる

    カウンターで生ハムを切り分けてくれる

  • おすすめ3選

    おすすめ3選

ワイン飲み、自宅で世界旅行  酒のプロが本日の1本を推薦
駅前にオープンした新たなスポット
JR前橋駅前に昨年12月誕生したアクエル前橋。書店やカフェが並ぶ開放的なフロアの一角、色とりどりのワインボトルが並ぶ。厳選したこだわりの地酒を取りそろえる仲沢酒店の運営だ。
普段使いできる1000円未満から数十万円の高級品まで1000アイテムある。どれにするか悩みそうだが、「希望を言っていただければ最適な一本を選びます」とソムリエの関敏惠さん。海外旅行ができない中、「ワインを飲みながら、その土地を調べたり、料理と合わせてみたりしては」と仮想旅行を勧めてくれた。「塩味が強く辛口の白ワイン。魚料理に合う。真っ青のエーゲ海を思い浮かべてください」。一押しはギリシャだ。
胸に輝くソムリエバッチ

地酒のほか県内酒造関連の酒も
日本酒も酒ディプロマ(SAKE DIPLOMA)の資格を持つプロの選び抜いた銘柄がそろう。群馬の地酒はもちろん、全国の限定流通の一本に出会える。
渋川市出身の今井翔也さん、現在フランスで日本酒蔵の杜氏をしている。彼の造る輸入された日本酒「WAKAZE」もあった。県内のソムリエでつくる群馬ソムリエ騎士団がプロデュースした「S(エス)」は無濾過、しぼりたての生酒。出来立てのフレッシュ感を楽しめる。
人気のクラフトビールやウイスキー、焼酎も欲しいものがそろっている。珍しい梅酒を見つけた。メキシコで日本人が造っているテキーラを輸入し、県内の蔵元聖酒造で群馬の梅と合わせ、熟成させた世界初の「テキーラ梅酒」。炭酸割にしよう。

地酒や地域食材の魅力を伝える各種講座を主催
地元の蔵元を招いたイベントや同じフロアのTSUTAYAさんとコラボしたワイン教室など、地域の魅力の発信や、酒の楽しみ方を教えてくれる取り組みを続けている同店。是非、気軽に足を運んでみて欲しい。
日本酒とチーズのイベント
 
店のおススメを試飲
店内カウンターでその日のおすすめを試飲

店内カウンターでその日のおすすめを試飲

 店内に7席のカウンターバーがある。グラス1杯500円から好きな酒を注文することができる。お薦めのブルゴーニュの赤ワイン(800円)を注文、イタリア産の切りたて原木生ハムと合わせてみた。
「香りがバラやスミレのように華やかなのが特長。果実味と酸味のバランスがいい」と関さん。確かに、フルーティーさを感じるし、タンニンがあまり強くないせいかスーと飲める。少し冷えていたが、これで正解。脂がのっていて旨味の凝縮した生ハムを食べては一口。優雅な時間をいただいた。
(ライター/Kaz.A)

高橋与商店

  • 店舗外観

    店舗外観

  • 店舗内観

    店舗内観

  • 店舗内観

    店舗内観

  • ワインセラー

    ワインセラー

  • 店内の角打ちスペース(休止中)

    店内の角打ちスペース(休止中)

  • 店のガレージを使った交流イベント

    店のガレージを使った交流イベント

  • オリジナルの酒袋

    オリジナルの酒袋

  • お話を伺った福田夫妻

    お話を伺った福田夫妻

地酒を飲む喜び「与」えます  群馬の蔵元がそろう
新前橋駅おりてすぐの老舗酒店
JR新前橋駅のロータリー、紺地に白く「与」が染められた看板が粋を感じさせる。
入口すぐに立ち飲みができる角打ち(かくうち)。「オール群馬の地酒 舞風」のコーナーが中央に陣取り、大型冷蔵庫には生酒をはじめ高温を嫌うデリケートな日本酒がずらりと並ぶ。
「地元の酒を深めていきたい。現在は、県内19の蔵元の酒を取り扱っている。真面目に酒造りをしている地元の蔵元を応援したいですからね」。4代目の福田祐二社長は地酒への愛着を語る。
お話を伺った福田夫妻

まもなく創業90年
高橋与商店は、1932(昭和7)年にたばこ店として創業。まもなく90年になる。酒屋になったのは2代目の高橋与志美さんの代。屋号はそこから取った。配達に力を入れ、主に業務用で売り上げを伸ばした。 2代目の孫にあたる福田恵さんのご主人、祐二さんが跡を継ぎ業態を変えた。「価格競争では大手にかなわない」と店売りにシフト。地酒の品ぞろえを増やしていった。「危機感を募らせた蔵元が質を高め、魅力が見直され始めた時期だった」と振り返る。
「いい地酒がそろっている」と口コミで広がり、駅前という好立地もあって遠くから来店する客もいる。「若い方、女性の地酒ファンも増えた」と客層の変化を歓迎する。近隣の飲食店とタイアップして酒の持ち込みができるようにしたり、定期的にイベントを開いたりと、さらなる普及に力を入れている。
店のガレージを使ったイベント

 
店のおススメを試飲
前橋市の蔵元・町田酒造店の「町田酒造・限定直汲み」

前橋市の蔵元・町田酒造店の「町田酒造・限定直汲み」

前橋市の蔵元・町田酒造店の「限定直汲み」をいただいた。
長野県産の酒米「美山錦」を100%使用、精米歩合は55%という贅沢な酒だ。 「直汲み」とは搾ってすぐに瓶詰めしたもので、ガスがわずかに含まれる。しっかり冷やして飲みたい。フルーティーな香り、フレッシュな甘さ。ガスのジワッとした感じも楽しい。
「刺身に合います」(福田恵さん)と薦められて、アテにしたのはアジのなめろう。味噌、ショウガ、シソと一緒にたたく。やや濃い味付けが冷酒にいい。
(ライター/Kaz.A)

 

地中海本舗 町田酒店

  • 店舗外観

    店舗外観

  • 店舗内観

    店舗内観

  • 一押しのワイン看板

    一押しのワイン看板

  • 手に入りにくい地酒が並ぶ

    手に入りにくい地酒が並ぶ

  • ナチュラル素材にこだわった地産地消のお酒 緑風街

    ナチュラル素材にこだわった地産地消のお酒 緑風街

  • 「緑風街」酒造りの様子

    「緑風街」酒造りの様子

  • お話を伺った店主の町田さん

    お話を伺った店主の町田さん

地中海の風を感じるワイン  赤城山南面 緑の風が吹く街の地酒
前橋にある地中海
店に入ると、中央の天井から吊るされた看板が目に飛び込む。「あなたのDardell(ダルデル)。」地中海に面したスペイン・カタルーニャ地方で固有種のブドウを有機栽培し醸造している“盟友”の名だ。
店主の町田明弘さんが海外協力隊の同期から紹介され、小さな醸造所を訪れたのは1997年。「濃いけど渋くなくて。あっ、『地中海だ』。そんな強烈な印象だった」。初めて口にした赤ワインに感動した。祖父の畑を継いだダルデルの境遇にも共感を覚えた。自身も30歳の時に商社マンを辞め、亡くなった祖父の店を守ったから。すっかり意気投合し取引を始めた。
自慢の看板

きっかけは友好都市のワイン
ワインに力を入れ始めたのはその少し前、赤ワインがブームになり始めたころ。高校の柔道部の先輩から勧められ、前橋の友好都市、イタリア・オルビエートのワインを直輸入した。いまでは欧州産を中心に1300種を抱え、売り場は店の半分以上を占めている。 飲食店向けが主力であり、ウイスキーや焼酎、輸入ビールなど幅広い酒類を扱っている。手に入りにくい地元の蔵元の地酒も取り揃えているので、赤城南麓観光の途中に立ち寄ってみるのもおすすめだ。

地元の素材で地元の人と酒を造って味わう楽しみ
町田さんは、お酒販売の傍ら、「日本酒を米からつくる」という独自の取り組みを地元の仲間たちと続けている。こだわりの米を栽培する岡野公彦さん、前橋市内にある蔵元・柳澤酒造と組んで製造、店で限定販売する「緑風街」は今年で18年目になるという。「みんなで田植えし収穫した米、赤城山の伏流水を使った前橋100%の地酒。ご縁を大事にしていきたい」と足元を見つめている。
酒造りの様子酒造りの様子
   
店のおススメを試飲
ダルデルの白

ダルデルの白

ワインセラーに氷を入れダルデルの白を冷やす。「前菜や魚介料理によく合います」との町田さんのアドバイスを得て、つまみはアヒージョにした。
まず、一口。すっきりした味わい。フルーティーであり、しっかりと辛口。一番好きなタイプだな。 アヒージョはマッシュルームとツブ貝、そして地中海といえばタコでしょう。オリーブオイルにニンニクを塊でたっぷり入れ、弱火にかける。熱々を口に運び、冷えたワインで流し込む。料理を引き立ててくれる。永遠に続けられそうだ。
うまい酒は、家に居ながら世界を旅することができるアイテムなのだと実感する。
(ライター/Kaz.A)

 

●特集掲載店マップ

●特集掲載店マップ
マップを見る